【感想】神野佳月「混沌譚1 ティエラ山篇」

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【作品情報】

神野佳月「混沌譚1 ティエラ山篇

「ダークロマンSF 凄惨な過去を生き延びた戦士が孤独を抱えた兵士に出会う」

凄惨な過去を生き延びたティエラ教義の学師エドガルド。深い闇と孤独を抱えて生きる都市人の学徒ナサニエル。ティエラ山での出会いが、二人の運命を大きく変えていく。

〈あらすじ〉
あらゆる物質にエネルギーの宿る惑星。そこには、初期に移住し惑星本来の環境下で暮らす先住民と、数百年後に移住し地球環境に近い人工都市を築いて暮らす都市人がいる。

過酷な惑星環境で生き延びるため、先住民はこの星のあらゆる物事を探求し、人類との調和の道を探る学問体系「ティエラ教義」を生みだした。その総本山であるティエラ山に二年ぶりに帰ってきた学師エドガルドは、「アダンの再来」と呼ばれる学徒ナサニエルに出会う。 彼は過去を偽りティエラ山に潜入している都市人だと疑ったエドガルドは、自らの目的のため、ある作戦をナサニエルに持ちかける。

短編〜中編連作予定の作品の第一篇です。基本的に一話完結のつもりで書いています。導入編であるこのお話は、物語の入り口に立つ所までです。



【感想】

はじまりのほんの十行ばかりを読んで、読もうと思いました。それはいい。しかし、私は諸事情があってなぜ自分がこの作品を読もうとしたのか深く考えざるを得ませんでした。

エドガルドの感慨がいいなと思ったから? それは確かにそうです。しかし、それ以上に引力を感じたのです。読者を物語に引き込む力を。ではなぜそんな力があるのか。文章が巧いから? それもあります。読み手としての時間が長かったと作者様はおっしゃっていましたが、良質な文章を吸収してこられたのだなということがよく分かります。しかし、文章の巧さ以外にもう少し理由がありそうなのです。

しばらく考えて、その理由の一つは、読者を作中世界に招き入れる気があって、それに成功しているということだなと思いました。この世界に、自作を読まれたいと思っている作家は無数にいます。しかし、読者を自分の世界に招き入れる気のある作家は実はそう多くないのです。

本作の設定はそう簡単ではありません。安易に言うならば、SF世界とファンタジー世界が混合されています。その世界で物語は始まります。

第一話、世界の説明があります。新しい人名が五つは出てきます。ティエラ棒術という読者にとっては全く未知のものが始まります。読み手として物語を読みつつ、一人の書き手である私は考えました。私だったらこの第一話は書かない(書けない)と。だって、冷静に要素だけ取り出してみたら第一話としては過積載です。全く物語に関して読者が未知で混乱しやすい第一話において、これだけのものを詰め込む勇気は私にはありません。しかし、本作はそれでもなお、読者を作品世界に引きずり込むことに成功しているのです。いいえ、それだからこそ、と言うべきでしょう。後になって見れば全て必要だったのですから。

そして、本作はあれ? と思う所で一つの話が区切られます。普通、連載小説で一つの話を終わらせるときは次話への引きを作ります。しかし、本作ではしばしば一見何気ないところで一つの話が切れます。私は戸惑いました。でも全部引きとして成立しているのです。なぜなら読者である私はもう物語に引きずり込まれているから。

そう、書き手としての私は、本作を読んで戸惑いました。それはもちろんいい意味で。その戸惑いは多分、目の前の人がいきなり自分が見たことも考えたこともないフォームで走り始めて百メートル九秒を叩きだした時の戸惑いに似ています。「……なぜ、そんなに速いんだ」。その戸惑いに倍する賞賛を送りたいと私は強く思います。

私は本作の前半を読んでいる時に、この話は何かあるなと予感していました。でもそれは半分正しく、半分間違っていた。物語の後半に進み、過去や謎が明かされるにつれ私は放心しました。「何かある」なんてものじゃない。あの時点で「全てあった」のだと。この感覚は是非皆さんに実際にお読みになって感じていただきたいと思います。

神野佳月「混沌譚1 ティエラ山篇

続きはこちら。

混沌譚2 水獣の謡

なお、NOVELDAYSには更に続きと外伝があります。

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