【講評】奥久慈 しゃも「紫苑の召還子」

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【作品情報】

奥久慈 しゃも「紫苑の召還子

「亡き祖母の贈り物は、やがて少女の運命を大きく揺るがす。」

ここは魔法が日常を支える何処かの世界で、魔法を使えないトチはどこか日常に窮屈さを感じていた。
身寄りのいないトチは今は亡き祖母から譲り受けたペンダントを眺める日々の中で、数少ない友人のトリアネから街のお祭りに行こうと誘いを受ける……。



【講評】

こんにちは、辰井圭斗です。昨年は自主企画「辰井講評窓口」にご参加くださりありがとうございました。すっかり遅くなってしまい申し訳ありません。こちらに講評を書きます。

王道厨二学園魔術長編ファンタジーの第1~3話という印象でした。恐らくお好きなものをワクワクしながら書かれたのではないかなと思います。ストーリーラインは頗る王道で所謂”覚醒”もの。気持ちよくなるポイントと必要な要素がちりばめられており、”好き”の蓄積を感じました。

驚いたのは2点。
1点目は他の方も仰っていますが、情景描写の巧みさです。一枚の”画”にした時の描写もお上手ですが、カメラの動かし方も気持ちがよいです。頭の中で流れる映像を文字にしていくタイプの作家さんかなと思いながら読みました。アニメなどを見慣れている人にとってはかなり入りやすい文章だと思います。
2点目は最後。大切な人のために秘められた力を使い強敵を打倒する爽やかな達成感で締めるかと思いきや、”普通ではなくなってしまった”ことを少しずつ飲み込んでいくしかないという苦い着地。こだわりを感じる深みのある部分です。

難点を挙げるならば、3点。
1点目は、日本語の問題。しばしば日本語が文法・語彙ともに不自然です。それも味のある不自然さというよりは、ズレているという感じで絶えずノイズでした。所々意味の読解も困難です。優れた情景描写に浸りたいところ、それが妨げられ残念でした。
2点目は、トチが当初”持たざる者”であることが説明しかされないこと。「入学して間もなく、魔力検査において彼女の魔力量は限りなく無いに等しかった」などの文章でトチが魔法を使えないことは書かれますが、それは”説明”であって”描写”ではありません。生で未調理の情報を叩き込んで読者に”呑み込んでもらっている”に過ぎないのです。
もちろん、小説には説明で済ますべきところもあります。しかし、ここでトチが”持たざる者”であることは、最後で普通ではなくなってしまうことへ反転させるための重要な布石であるはずです。本作であの最後にするなら、説明を越えた描写をするべきです。
3点目は、短編としてのまとまりの問題。未回収の問題が多く、「続きが楽しみ」というよりは「終わり切っていない」ように感じます。召還術も登場が唐突であり、もう少し丁寧に設定を配置していく必要があると思います。現状短編というよりは第1~3話という印象で、仮に第1~3話だとしても、きちんと書くのであれば少なくとも今の2倍分量がいります。

色々申し上げましたが、良い所は本当に良く、可能性を感じる作品でした。奥久慈さんの堅実な長編ファンタジーを読みたいです。お気が向かれたら是非お書きになってください。読ませてくださりありがとうございました。



【作者様からの返信】

こんにちは。反応が遅れてしまい申し訳ありません。
今回、辰井様の自主企画への参加並びに講評の寄稿、誠にありがとうございます。
さて、辰井様の講評を受けまして、只々、己の未熟さを痛感するばかりです。言い訳は致しません。(一つ言わせて貰うとすれば、風呂敷を広げ過ぎました……)
しかしながら、改善すべき点は多々あれど個人的に書きたかった場面は書ききったつもりです。
改めて、ご拝読及び的確な講評、誠にありがとうございました

奥久慈 しゃも「紫苑の召還子

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