前置き

では他己紹介からしますか。二人とも知名度塵芥なので。

企画練っている時に僕が言いましたね笑。
はい、すみません塵芥でございます。

今回は二人のことを知らない人がいるという前提でお話しましょう。
まず今回なんでこんなことになっているかというお話からすると、「コラボしたら楽しいんじゃない?」ということでした。
私のコンテンツを私ばかりでやっていると風通しがどうしても悪くなるので、外の風を入れたいなと思って。
それでドラ・焼キさんは私と小説の好みがかぶっているので、とりあえずドラ・焼キさんから声を掛けてみようということになりました。

はい。では僕の方から辰井さんを紹介させていただきますね。
辰井圭斗さんは、主にはカクヨムで活動していらっしゃる東洋史系の方ですね。
あと躁うつとかそういう精神疾患の話で作品を書いていらっしゃるタイプの方です。
あと作品の知識が多い方なので、僕の方はあまり読むことをしない人間なんですけど、辰井さんは滅茶苦茶読む人なので知識の方面では辰井さんをあてにしてください。
代表作の話とかは後ほど。

こちらもドラ・焼キさんの紹介をしますね。
ドラ・焼キさんと言えば『メルカトルワールド』なんですけど、そうですね……どうかしている作品を書く人ですね。詳しくは後ほどお話しますが。
まず書き手としてのドラ・焼キさんは『メルカトルワールド』と他の作品でかなり作風が違うんですけど……飛ばしてますね。
かなり、「それ読者付いて行けるの大丈夫なの?」っていうレベルのものを力技で読ませる感じの人。
読み手としてのドラ・焼キさんは鋭いですね。ドラ・焼キさんにレビュー書かれた人は「確かにそうかも」って言ってたりしますし。

僕そんなレビュー書かないですけどね。
あちらが開示しているものに対してそうなんだなと書いている感じはありますけど。

鋭い分析を書く方ですね。
ああ、そうだ大事なことを言ってなかった。代表作としてはファンタジーを書く人ですね。すごく世界観の凝ったファンタジーを書いている人です。

何でもありな感じの

うん、ずるい世界観の。
まあこのくらいにしておきましょうか。

はい、ではここからは僕たちがそれぞれ推している作品を語っていくんですが、辰井さんの最推し5作は何ですか。

私は
姫乃只紫さん『黒ノ都』
五水井ラグさん『ストロベリーポップキャンディー。』
ドラ・焼キさん『メルカトルワールド』
坂水さん『桜の咲く頃、梅は散る』
戸谷真子さん『偉志倭人伝―宦官は蓮の花托の上で微睡む―』
です。

僕は
姫乃只紫さん『黒ノ都』
五水井ラグさん『ストロベリーポップキャンディー。』
五水井ラグさん『珈琲店アナログアンブレラ。』
辰井圭斗さん『デルギ・ハンの大叛乱―皇孫アリンの復讐―』
辰井圭斗さん『Line』
です。
両者推している作品が2作ですね。
それを紹介して、その後で僕たちそれぞれが推している作品を3作品ずつ紹介するという感じですかね。

そうですね。それでいきましょう。
まず2人の推しがかぶっている作品から。
というか、あれなんですよね、2人の推し作品かぶってるし、お互いの推し作品にお互いの作品が入っているし笑。

なにか怪しいものを感じますね

姫乃只紫さん『黒ノ都』
姫乃只紫さん『黒ノ都』
美しくなくたって生きていていいだろ
読解難易度:HARD 作者が十六歳の折にしたためた叫び。
「02『Strawberries and Cream』」以降ほぼ残酷・暴力描写しかないため、苦手な方は読まないでください。

最推しです。今一番推してるウェブ小説なんですけど、姫乃只紫さんの作品だったら、『安定限界』とこれで迷いました。

『安定限界』、割と痛い青春を煮詰めたような作品ですね。


そうですね。
猟奇的なものとかすごいですよね。

これでもかというほど色んな意味で残酷な作品なんですけど、でもとても美しい。
私はこんな昏い感情を書いてこんな美しく書けないよって思うんですよね。全然私では深さが足りない。到達できない深さと鋭さにいっている作品ですね。

確かにすごいどす黒い感情をきれいに理性的にまとめているというか。感性も鋭い。
僕からした『黒ノ都』の印象なんですけど、まず初っ端で人を惹きつけるというのは創作のやり方なんでしょうけど、その惹きつけ方が「なんだこれ」ってなるんですよね。「馴染む」ではなくて。正気じゃいられないという。
最初からクライマックスみたいな展開がくるじゃないですか。それはもうちょっと終盤に来る残酷さじゃないのっていう。

いや、そうではないのでは。あれはああじゃないですか?

いや、『黒ノ都』はああでないといけないと思うんですけど、他の作品を色々読んだ上での印象はそうだなと思うんですよ。

ああ、なるほどね。

あんな物語として一つ終わりそうなところで第一幕終わりっていう……えっ、これ始まりに過ぎないの? って。
よく物語とかで「始まりに過ぎない」みたいな言葉がありますけど、あれが本気でビビらせてくる感じのやつです。

そうですね……一幕の終わり方もすごかったですよね。
あのー、誰が好きですか。私理杏なんですけど。

僕も実は、というよりつむぎと友達なので、その子の個別エピソードで、EXTRA『TABOO』というエピソードがあるんですけど、あれはこんなグロテスクな話にこんな可愛らしい話する⁉ っていう。そこらへんで理杏ちゃんが好きっていう感じですね。

私第一幕の終盤の理杏の主人公ぶりがすごいなと思って。
でもどうなんですかね。あの後の展開は四人とも覚醒していくんですかね。

それこそウェブ小説じゃない作品の話するんですけど、『ブギーポップ』とか『化物語』とかその系列の精神の問題が能力とか怪異とかになっていくそういう話に通ずるものがありますよね。

えーー、そうかなあ?

え、そうじゃないですか?風船とかチェーンソーとか、彼女達の精神内部にあるものは実際に能力になっている気がしませんか。

うーん、ああなるほどね。
うん、言ってることは分かるんですよ。分かるし、そっちに行って全然おかしくないなって思うんですけど、私はそっちに乗り切りたくないです。

今までの方向に行くだろうってことですか?

いや、なんというかそこの解釈の余地はまだ残しておきたいなって思っていて。そこの解釈はまだ空白にしておきたい感ありますね。

これを読む方に警告みたいなことを申し上げておくんですけど、僕と辰井さんは作品の好みは非常にかぶるんですけど、好みのアプローチが全然違うので。
割と僕が分析的に入るのに対して、辰井さんは感性的な方が鋭いので、そこらへんでひどく食い違うことがあります。

そうですね。まさにその通りですね。
ドラ・焼キさんはかなり理性と論理の人ですよね。

僕は感情に対してどうにも……感情の当事者ではないみたいな読み方をしてしまうのがあるんですよね。

感情の当事者でないか、面白いですね。

そういう読み方をするのでこのように食い違うことがあります。

私気になるのは16歳の姫乃さんはこの話ちゃんと完結させたのかなということで。

次行きましょう。これ以上この話をしても謎が深すぎます。
五水井ラグさん『ストロベリーポップキャンディー。』
五水井ラグさん『ストロベリーポップキャンディー。』
「さみしいよ。ふうって呼んで。お友だちになろ?」――絶望系青春ノベル
「友だちになって下さい、……嘘でいいから」
たいして話したことがなかったクラスの女子との、とある夏。

次はスパーッと入ってくる『ストロベリーポップキャンディー。』。

『ストロベリーポップキャンディー。』はね、2人はこの前読んだんですよね。
私が講評企画をカクヨムでやっていて、その講評企画に五水井さんが寄せてくださった作品ですね。
で、その講評企画で私が講評を書く1番最後の作品だったんで、いい加減疲れてたんですけど、疲れながら読んでいたら初っ端で「これはやばいものを読んでいるな」と思って笑。

なかなかなものでしたよね、あれ。

すごかった。最初からすごいですよね。

構成が特殊だけど分かるというのもすごいし。
そんなかたちの話を見てて1番熱いところをほんとに持って来たなって。

なんでしょうね、別に派手な言葉も使わないのだけど、すごく激しい話だなと思いましたね。

訥々と語られますよね

そうなんですよね。言葉自体はかなり静かめなのに、滅茶苦茶激しいっていう。

じゃあ、僕的な感想から。
あれ読んでいる限り構成の時間がすごくストレートじゃないんですよね。
時系列ではなく感情の高さを基準に展開を置いているというか。
1番本来あの……あーこれはネタバレになるから言えないな。
とりあえず、”僕”と彼女のというそういう構造ですけど、あの話ってギリギリ分かるラインを攻めているところがすごいんですよね。
よく考えたらこれ分かるラインと分からないラインの危ういところを突いているなと思うんですよね。

あー、そうですか。そこは感覚ずれたな。

それこそ物事についてはっきりと説明してしまう作品ではないです。
主人公の過去とか、バチバチで終わらせて、具体的な話はしないけど、こういうことがあったんだなと想像させて考察させるようなギリギリですし、構成も順序がちょっとありえないかたちになっているけど、でも分かるぞって、それで最終的には感情のクライマックスがちゃんとクライマックスに来るという。
その文体が詩のようというか。全体でリズムを保つというすごい難しいのが最後まで続いている。
詩の長さではなく短編の長さで全体のリズムが保たれているというおかしさがあるんですよね。
そこらへんがただの起承転結がある話とは何かが違う、そういう印象を与える作品だと思いました。
こういう風に僕と辰井さんでは印象が食い違うんですよ笑。

でも、構成がすごいなとは私も思っていて。
だって、彼女がああなる話じゃないですか。普通の時系列でやっちゃったらすごい暗い読み味になってしまいかねないんですよ。
でも時系列ずらして、ああするところで終わらせるから読み口がすごく爽やかになっていて、すごいことやっているなと思いました。

並べ替えだけで印象を変えているという高等技術。

というか時系列の操作って難しくて。下手にやると本当に訳分からなくなるんですけど、すごく複雑な操作をやっているのに、そのあたりのことを感じさせない力量がすごいですよ。

置いてけぼりになりそうだけど、置いてけぼりにされていないっていう。
そこらへんがすごいところなんですよね。
五水井ラグさん『珈琲店アナログアンブレラ。』
五水井ラグさん『珈琲店アナログアンブレラ。』
魔法があたりまえの世界で「あえて魔法を使わない」レトロな珈琲店の物語。
大企業の社長を父親に持ち、国立学園に首席で入学、誰が見ても幸せな少女はその日飛び降りるためのビルを探していた。
導かれるように偶然見つけたのは、悩みを抱えた人々がふらりと集まってくる不思議な珈琲店。
――魔法を使うのがあたりまえになった世界で、「あえて魔法を使わない」レトロな珈琲店の、詩みたいなファンタジーです。
◆
【キャラクター設定協力】
・水玉風花さま(ユアン)
※本作は自殺や自傷行為を推奨するものではありません。
【参考文献】
・田口護、旦部幸博『コーヒーおいしさの方程式』NHK出版
・丸山健太郎『珈琲完全バイブル』ナツメ社
・山田栄『知る・味わう・楽しむ紅茶バイブル』ナツメ社
主人公:15歳
朝読小説賞キャッチ:魔法があたりまえの世界で「あえて魔法を使わない」古風な珈琲店

で、ドラ・焼キさんは同じく五水井さんの長編の方を推してくださっていて。

今カクヨムコンのキャラクター文芸で19位になっているそうです。
魔法が使える世界であえて魔法を使わない珈琲店の話です。
五水井さんの文体は先程も言ったように詩のようになっていて、それでよく考えてみたらまだ完結していないんですけど、構成としてもやっぱり特殊というか。
序破急の序が非常に長いんですよ。
展開のスピードは遅いんですけど、それとは別に読者が共感できるとか、この感情はエンタメの範囲では収まらないくらい置いてけぼりになりそうなくらいドデカイ感情が襲ってくるという点で、序破急の展開が整っているというリズムのよさとは別の面白さがあるから、それで読み手を惹きつけてくるという特殊な構造の作品ですね。
構造の話ばかりせずに内容の話をしますと、まず、ドライヤーなれメイクなれ、生活のための行為が全部魔法に置き換えられてしまった世界観です。
そういう生活感みたいなものがどんどん魔法に置き換えられているような世界なんですよ。
その世界であえて魔法を使わずに、という。
代表的なもの……傘は差さないんですよ。傘魔法を使うんです。1番言わなきゃいけない。

傘魔法? 「傘」って書くってことですか?

はい。「傘」って書いたら、頭上の水滴が弾かれていくんですよ。
傘って差すものじゃないですか。
それがこちらの世界では普通。
でもあちらの世界では差さないんですよ。傘魔法を差している。
そんな生活感が魔法に置き換えられてしまっている中で、主人公の女の子ムーウが行く店では傘はちゃんと差すものがありますし、珈琲は魔法で淹れるんじゃなくて、マスターが自分の手で淹れてくれたり、そういう……暖かみと言ったら安直ですけど、生活感がいまだ残っている場所と言うか。そういう場所に行き着く話ですね。
もう1個ポイントがあって、ムーウが自殺願望のある女の子で、なんでかというと、そういう魔法で自動化されている技術世界の最先端の会社の令嬢なんですね。
でも、その父親があまりにも彼女のことを気にしない。
それで、彼女に関しては本当に色んなものが希薄なんだろうなと。
そういう中で見つけた珈琲店アナログアンブレラを中心に起こる交流の話ですね。
割と五水井さん個人の感情もバリバリに溢れ出て、作家性が強烈に出ている作品でもあるので、是非読んでみてください。
本当に読んでいる限り、ただの作品として楽しむものではないのかもしれないと思いつつ、面白いなと思いながら読んでいる感じです。

うん。私は五水井さんから講評の返信の方で推して頂いたので、全然フォローしているんですけど、タイミングを計ってまだ読みに行っていない感じですね。
多分読んだらレビュー書いてしまうので笑。
レビューの投下時期として今どうなんだろうな、もうちょっと待った方がいいんじゃないかなとか思って、まだ読みに行っていないですね。

僕そういうこと考えずに行っちゃうんですよ。
ここらへんもやっぱり食い違うというか。

だから、この前ドラ・焼キさんが行ったもんだから。
ドラ・焼キさんが行ってなかったら、私が行ったんですけど。
ドラ・焼キさんがどうもこの前すごいカッコイイレビューを書いたそうなので。

カッコイイかは知らないですよ笑。

なんというか、こう短期間で重ねるのもなって。

それなんかそういうことじゃないのっていう雰囲気出ますよね。この記事みたいに!

どういうことです?笑。

な、なんでもないです。

ということで、今度いい感じのタイミングで読みに行きます。

どえらい作品でございます。
文章の詰まった感じのものではありますけど、でもそれでもテンポよくスラーッと読めるような作品なので、是非怖がらずに読んでみてください。本当にいい作品ですので。
辰井圭斗『デルギ・ハンの大叛乱―皇孫アリンの復讐―』
辰井圭斗『デルギ・ハンの大叛乱―皇孫アリンの復讐―』
行き着く先は屍山血河
世界一の版図を誇る大帝国の片隅から起こったデルギ・ハンの叛乱は、瞬く間に帝国全土を震撼させた。これは、その十三年前から始まる物語。 少年アリンは一族皆殺しの中一人生き残り流罪となった。彼はその皆殺しの首謀者皇帝アルハガルガへの復讐を誓う。一方彼の従姉弟ユエランとエルデムは皇女、皇子としていかに生きるべきかを探る。三人と大帝国の行く末は――。

次、はい。それこそ何かを疑われかねない、辰井圭斗さんの『デルギ・ハンの大叛乱―皇孫アリンの復讐―』。
決して八百長とかではないです。
この作品のすごいところは10万字に収まっていることです。
知識量とか色々話はありますけど、元々皇帝になる予定だったお父さんをアルハガルガっていうお父さんの弟に殺されちゃったっていう主人公のアリンがそいつに逆襲するっていうのが筋書きなんですけど、いや、普通この歴史は10万字に収まらんだろって。
それこそ、この辰井さんが東洋史系のすごい詳しい方なので。
そういう考察がいるレベルの歴史を10万字に収めているんですよ。
それがまずありえないからすごい。
各キャラクターの野望とかも見えてきますし、そんなド詳しい話をなんで10万字にしたんだっていう。
でもそれでしっかり完結しているんですよ。それがえげつない。
どいつもこいつも野望を抱いてんなというか、圧縮度がすごいです。圧縮の作品。
辰井さん自身の書き方がそういうところがあるのかもしれないですけど、圧縮度が非常に高いので。
10万字ですけど、10万字以上の楽しみがあります。
で、文体の方もすごいあっさりとしているから引っかからないんですよね。
それこそ、「~だと思った」というのを「~だと思った」ってそのまま書いちゃうような。
サラーッとした文体なので、読み味があまりにもいいというか。
それでいて……これレビューで書いたもう1つのことなんですけど、「もしこうだったらこうだったのに」という反実仮想が随所で見受けられる、そう思わせられてしまうような表現がありますね。
僕は特にユエランが好きでして、ユエランが最後に言うあるセリフが大好きなので。是非そのセリフを読んだ上で読み返してみてください。
「ほんとじゃん」ってなるので。
それで僕はユエランが最推しなんですけど、ちなみに人気キャラは董松というキャラクターだそうです。
10万字で推しキャラとか言える話なんですよ。是非是非。
ただ、正直ラノベとかではないです。ラノベのノリでは読めないです。

あ゛~苦笑。

最後に痛いところを突かれたと笑。

この前講談社さんに言われたやつ笑。
あれなんですよね、ちょっと喋りますけど、10万字に収まったのは自分でもすごく意外で。
当然20万字、30万字になって全然おかしくないはずの話なんですけど、私は大体何か書くと分量が半分になっちゃうんですよね。

あまりにもあっさり書く方ですからね。

ね。文体もね、もっと凝り凝りに凝りたいんですよ。
それこそ、ドラ・焼キさんの『メルカトルワールド』くらいの文体が私の理想なんですけど。

そうですか? あ、こういうこと言うと本当にもう八百長感がすごいことに笑。

はい、八百長感すごいけど笑。でも、そうなんですよ。
だけど、なんかああいう文章しか書けないし。

なんというか、鉄分たっぷりの豆腐とか水とか、そういう文章を書く方だって1回言ったことがあるんですけど、そんな感じですね。
すごくあっさりとした。セリフの力もすごいですし、文章の力もすごいんですけど、だからといって忘れられない文章になるわけではないというか。
すごいサラサラーっと入ってくる、そのまま入ってくるという感じです。

らしいですね笑。
辰井圭斗『Line』
辰井圭斗『Line』
これが、光だよ

これも辰井さんの作品です。辰井さんつながりでいきます。『Line』です。
端的に言うと才能のお話なんですけど、それに触れた時の感情が「分かるわ」という。
才能に触れた時の感情が明確に共感できるように書かれているのがすごいですし、才能への憧れに恋情が絡んでしまった時の複雑さというか。
それはちょっとこんな希少な表現を見るんだなと。
貴重映像、貴重資料みたいな感じです。
何がなんだか分からないですけど、読んだら何がしか思い出すものがある作品だと思います。

それがね、どうも人によるらしいんですよね笑。
だから全然身に覚えがないよという人もいるし、分かる分かるという人もいるし、羨ましいっていう人もいるし、地獄じゃねえかという人もいるし。
本当に反応が分かれる作品ですね。

僕はとりあえず「あっ!」ってなりましたね。僕の記憶がひゅーって。

そうですね……あきかんさんという私の推し作家さんがいるんですけど、あきかんさんにレビューを書いて頂いて、青春って敗北の歴史だよねというお話をしましたね。

そこまで自分ができるわけでもないし、できないわけでもないということを分かっていくのが、というところありますよね。

いや、あの、「できない」の方ですね。完全に笑。
完膚なきまでにこてんぱんにされる話ですね。

敗北の歴史ですね、あの話は。

でもそこまでこてんぱんにされたらいっそ気持ちいいよみたいな。
そんな話ですね。

そんな感覚を味わいたい方はいないでしょうけど笑。
でもそういうものに飢えている人も是非。
きついですけど、是非読んでください。思い出せますよ。
ドラ・焼キ『メルカトルワールド』
ドラ・焼キ『メルカトルワールド』
平らな星、火器なき文明、御伽噺の世界でなおも、彼らに選択の時は迫り来る
整序されたカオスで、彼らは何を選ぶのだろうか。
二万年前、かつて鉄と火と言霊の文明が栄えていた地球は、その持ちうる文明すべてを自壊に尽くした。そこかしこに火が満ち、爆炎は星核すら砕いたという。
そこで救世神話を紐解けば、「大神アルゴルはこれを救済した。彼は『地球展開』――星を平らに再形成し、『幻想漏出』――神秘の力・『幻想』をもたらしたかわりに、『災火封印』――あらゆる近代兵器を人類から没収し、最後に人類の存続権を試すべく、この世に『ケモノ』を放った」とある。
そして現在、救世暦20020年、世界は4つの生存地域に小国を一つずつ構えるのみとなった。ほかは、ケモノに占拠され人っ子一人残らない。しかし同時に人類の防衛技術も十分向上し、世界は再び広がりも狭まりもしない停滞の時を迎えていた。

じゃあ、私もお返しということで……お返しじゃないんだけどね。全然お返しじゃないんだけど、はい、『メルカトルワールド』。
いや、どうかしている作品ですよ笑。

苦笑

本当にね、思考の流れとか、或いは描写の仕方とか、言葉の使い方とか、全然読者を置いてけぼりにしておかしくないし、これは置いてけぼりになるよって思うんですけど、読ませられてしまうんですよね。

あれれれれ、これ本当に宣伝されてるのかな?苦笑。

で、そこがすごく魅力的なんですよね。本当にオンリーワンだと思います。
よくドラ・焼キさんに言ってて「分からん、分からん」と言われていた表現なんですけど、薄ーい刃の上を渡るような、そういう作品ですね。

はい、僕は自分でしばらくこれの意味が分からなかったんですけど、ああそういうことなら確かにそうかもしれないなという説明を頂いたり、頂かなかったり。
そうか……綱渡りか……。

本当にアクロバティックなことをやっていますね。
でもすごくエンタメ的なんですよ。

エンタメを踏もうとはしてますね。
僕はあの作品で自分のやりたいことすべてやろうとしてて、その結果があれなので。
僕の書きたい考えを全部わがままに書くという方向でも、読者の皆様にとってエンタメたりうるものを全部最大まで盛り込む方向でも全部やりたいなと。
あとちょっとこれは本当に意味があるのかは分からないですけど、いい文章を書きたいなみたいなところはあったりして。
そういうの全部全部全部やろうとしたらバグったみたいな動きをすることになったんですね。
アクロバティックというよりはカクカク動くバグった動きみたいなそういうものを書いているような気がします。
大丈夫か? みたいな。

あ、そうですか。結構滑らかに動いている気がするんですけどね。読み手からしたら。

そうですか? それはよかった。僕はもう断線寸前ですよ笑。

そうですか笑。でも、うーん、やりたいこと全部突っ込んでる感はすごくしますね。

だから世界観も何でもありにしたんですけどね。

キャラクターも本当によくてね。男性キャラも女性キャラも全部魅力的ですね。

ロード・マスレイ先生が好きなんですよね?

まあ、そうですね。ロード好きですね。
ロード好きだし、スピナさん好きだし。
私は小説読んでてあまり女性キャラを好きにならないんですけど、すごく魅力的な女性キャラが沢山いて、好きな女の子達いっぱいいますね。

メルカトルワールドの女性キャラは感情がそこまで強烈にならないところがありますね。
感情を抱えてはいるけど、そんなに強烈には出さないところがあるというか。

なんか、男性の書く女性キャラって、かなり幻想が入った美しい女の子だったりもするんですけど、ドラ・焼キさんの場合そうじゃないんですよね。
かなりリアル寄りの女の子なんですけど、でもとても魅力的ですね。

そうですね、例えをすると主人公の女の子はメンヘラに寄っている女の子で、ローナっていう女の子はヤンデレと言ったらなんですけど……違うな、ヤンデレは架空のものだなんて言ったらあれですけど、感情がドギツイ感じというか。感情的と言ったらいいですかね、そんな感じで。
それこそ辰井さんが先程仰ったスピナさんは、色々ごちゃ混ぜになって物を言えないというか。そういう方ですね。
僕の書く女性キャラがそういう風になるのって多分、僕の家庭の話なんですが、女性に囲まれて暮らしてきたからでして。
そういうのがモデルになっていたりするのかなと思います。特徴的な女性とあまりに会い過ぎたというか。
……逆に男性キャラクターがあまり現実的ではない感じかもしれないですね。

あー、そうですね、その傾向はありますね。そうですね、面白い面白い。普通逆になると思うんだけどな。
坂水さん『桜の咲く頃、梅は散る』
坂水さん『桜の咲く頃、梅は散る』
未熟な梅には毒がある。早過ぎた少年少女の早春・初恋・純不純文学
中学二年の年度末、幼馴染が親友に告白した。二人は付き合い始め、仲を深めてゆく。
けれど、僕は知っていた。桜より早く咲き、春を告げる清純な花の実には、毒があることを。
(一万字強、短編)

では次、坂水さんの『桜の咲く頃、梅は散る』。
いや、あのぶっ飛ばされましたね。
自主企画の方に寄せていただいたので、それで読んだんですけど、もう巧いんですよ、端から。
私、坂水さんは断トツで巧いと思っているんですけど。

僕も一応さわりまで読んでるんですけど、確かに言葉の操り方が別の感じですよね。これは違うぞというか。

そう。これは違うぞですよね。
で、これ、最大級の賛辞として言うんですけど、イマイチ伝わりづらいかな……姫乃只紫さんの『安定限界』を読んだ時と同じ衝撃を味わいましたね。頭ぶん殴られる感じ。
かつ、この世界はこんなに広いんだよ、だから大丈夫だよ絶望しなくてって言ってもらえたような気がするんですよね、すごく傲慢なことを言うとね。

すごいハッピーな感じですね。

いや、作品は全然ハッピーじゃないんですけど笑。

そうですか、まだ読んでいないので。

ただ、この世の中には、というかこのウェブ小説の世界にはこんなに素晴らしい作品があって、だから君はウェブ小説の世界に絶望しなくていいんだって言ってもらったような気がするんですよ笑。
全然君の行く先に道はあるし、人はいるよみたいな。

この前辰井さん、『デルギ・ハンの大叛乱―皇孫アリンの復讐―』の講談社さんからの講評が出た時に道が開けたような気がするって仰ってましたよね。

それとは違うんですけど。うーん、一人じゃないんだという感覚ですね。
なんというか、ある程度自分のやりたいことをやれてしまうと孤独を感じてしまうこと無いですか?

それは孤独というかどん詰まり感じゃないですかね。

ああ、どん詰まり感なんですかね。

目指していたところに行き着いてしまった時の終わってしまった感ですかね。
別に辰井さんが自分の目指しているところに行き着いたと思っていらっしゃるとは全然思わないですけど。辰井さん、まだまだやりたいことあるでしょうから。
ただ、辰井さんの言っていることって決して「私うまいぜ」っていう話じゃないんですよ。ただ、どう進めばいいのか分からないみたいな状況ですかね。

う~ん……そうなのかもなあ……。

このように僕と辰井さんは好みはかみ合うのに話は全然かみ合いません。どうしましょうね。

この対談大丈夫かっていう笑。もう何回も話しているのにね。
もう何回も直接会って話しているのに、いまだにこうだよっていう。

僕の方は論理で言うんですけど、辰井さんは感性がとても強い方なので。
何かが違う。多分実は同じことを言っていてかみ合っていたりもするんでしょうけど、全然合わないんですよ。

うん、で、どっちも納得しないっていうね。

そしてさっきもお互いの作品を推しながら、実はぶっ叩いているのかもしれないという面白い現象が起こっていて。

いやあ、ごめんなさいね笑。

僕達は本当に宣伝をしているんだろうかって。
それにしても孤独ですか。

うん、創作者ってどこかで虚しさにも似た孤独を感じてしまうものなんじゃないかって思うんですよ。
でも、そこを救ってくれた、そんな作品ですね。
話の筋としては青春というにはかなり年齢層が下なんですけど……恋愛……恋愛ものと言うのもなあ……。

言葉にできないって感じですね。

はい。かなり痛い小説です。
戸谷真子さん『偉志倭人伝―宦官は蓮の花托の上で微睡む―』
戸谷真子さん『偉志倭人伝―宦官は蓮の花托の上で微睡む―』
男か女か。美しい宦官の行く末は。
異国からの奴隷として東方の大国「偉」に献上された名もなき少年は、宦官(去勢された男性)・白木蓮(はく・もくれん)として後宮で生きてゆくことになった。
十三歳になるころ、男性でもなく女性でもないとされる宦官の自分に、木蓮は戸惑いを隠せなくなってゆく。
第二皇子・風鳴や美しい妃候補たちとの関わりの中で、木蓮は自分の性をどのように受け止めてゆくのだろうか。

次、戸谷真子さんの『偉志倭人伝―宦官は蓮の花托の上で微睡む―』なんですけど。
中華ものなんですよ。
それで宦官が主人公なんですけど、宦官なので男性と女性の中間みたいな立ち位置のキャラクターで、自分の性のあり方に戸惑っていたりもするんですけど、任務の都合上女性的に振舞うことを求められてしまって。
ということで、自分の失われた男性性とかそういうものを考えながらも、どっちつかずの性の中で、彷徨ったりとかする話なんですけど。
戸谷さんの作品ね。すごく色っぽいんですよ。

退廃的な方向ですか。それともきれいな?

いや、体温があるという感じの色っぽさ。
あと闇を感じますね。すごく。
私さっきドラ・焼キさんに推して頂いた『デルギ・ハンの大叛乱―皇孫アリンの復讐―』という作品を書いて、結構自分ではダークなものを書いたなとか思っていたんですけど、この戸谷さんの『偉志倭人伝―宦官は蓮の花托の上で微睡む―』を読んで思ったのは、「全然甘かったわ、全然私が書いたダークさなんてお子様向けだったわ」ということなんです。

大衆向けにしていたということですか?

いや、そういうことではなく。お子様のダークさだったなという。
戸谷さんは……私はまだ第6章の終わりまでしか読んでいないんですけど、ほぼほぼ人が死なないにも関わらず、大人のダークさがあるんですよね。

読まないと分からなさそうですね。

本当におすすめですよ。中華ものとしても素晴らしくて。
戸谷さん、Twitterの方とか見ていたら、服飾とか身の回りのものとかすごくお好きなんだなという感じがするんですけど、そういうお好きなものが詰まっている感じがしますね。
そういう歴史ものって読んでいて面白いですよ。身の回りのものに愛のある人が書いている歴史ものっていうのは。
私の作品とは違ってすごく読者にフレンドリーなので。

また読んでみます。

是非是非。
振り返り

これは総括みたいなことを言うんですけど、我々は痛みとか闇とかを求め過ぎではないですか?

このラインナップ?笑。

そういうのばっかり。

でもやはり自分の中の何かと響き合うものだから仕方がないでしょう。
とはいえ2作もかぶったというのが意外でね。
今日はありがとうございました。

はい、こちらこそありがとうございました。
読者の方へ。御作や推し作品などについて語りませんか? 必要であれば辰井が聞き役になります。原稿を送ってくださるだけでもOKです。ご興味あれば適当な方法で辰井に連絡を取ってください。お待ちしております。
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