【講評】草食った「飛んで火にいる」

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【作品情報】

草食った「飛んで火にいる

好きな子に芋虫を渡された男の話です



【講評】

私、草さんの作品を読むのはこれで4作目なんですが、どれも背後に殺伐……というのは正確じゃないな、ほのかな、或いは明らかな死の雰囲気を感じます。今回はなんでだったんでしょうね。藤宮という女の人の静かなやばみからでしょうか、それとも蛹になってしまったからでしょうか。

“好きな子に芋虫を渡された男の話です”というキャプションを読んで一瞬微笑ましいものを想像したんですが、そんな話ではなかったという……。草さんの書く小説は毎回「なんでそんな話思い付くの泣」という感じで今回も悲鳴を上げました。

まず“理解したので受け取った”のところで理解するな! と叫び、直後芋虫が喋る辺りで目を疑い……。けれどどうもこの世界では虫は普通しゃべらないらしい、犬とかライオンとかはしゃべるけれど。なぜ藤宮が彼に芋虫を預けたのかは結局のところ謎なんですが、一晩置いて考えるとしゃべってしまう虫だったからか? と思えなくもないです。“いいこにして待っててね”なんて優しい声で言うけれど、藤宮は内心どうあろうが必要であればそういうことをやってしまいそうなので。でも、最後の芋虫のセリフを見てもっと違った理由かもなと思ったり。うーん。

ここから上手いところをピックアップしようと思ったんですが文章を眺めればことごとく上手いので飛ばします。最初のひとかたまりのお気に入りは、芋虫のプリティーさが伝わってくる“おなかがすいたらよびます”とカーテンが揺れるという、それはそうだとは思いつつ思い付く人にしか思い付かない情景描写です。

次も上手い。“それは藤宮がキリンかアサヒかでエビスを選び、唐揚げかフライドポテトかでオクラ納豆を選び、猫か犬かで芋虫を選ぶような女だったからだと思われた”。見事です。特異な人をこうもしずかに、けれど鮮やかに書くかと。しずかに。静かにではなくしずかに。思いましたけど、この短編は全体にしずかなんですよね。起こっていることはそれこそ「なんでそんなこと思い付くの」なんですけど、勢いでぶん回して異次元に連れて行く感じではない。私達とはズレている人達がしずかに実在感を持って不可思議なことをしている。

それで蝶々の話。儚いいきものです。それをかわいがっていたあたり、暮野さんこと“俺”のパーソナリティが伺われるなというか、あなたは本来その女に惚れてしまってはいけない人だよというのが分かってしまいます。そしてそれを聞いた藤宮が蝶々の話を聞くでもなく、「なんの花を摘んで帰ったんですか?」。もうこの人の意図が分からない、ということが分かる。見事でした。

で、芋虫がかわいい。ひたすらかわいい。後から見れば振りですけど。あのまま直で動物園に行って藤宮パートが続くと死んでしまうので、ここに芋虫が挟まれるのは本当にありがたいです。

そして動物園。喋る動物は沢山いるのに、というか動物園に行きたいって言ったのに、藤宮はその中でも静寂に包まれる昆虫類のコーナーに行ってしまう。もう、手の出しようがないというか、ここで藤宮が喋る動物のコーナーに行くような女であればまだつけ入る余地もあろうものを、こちらからのアプローチはかけようがない。そして静かな虫を愛でる藤宮を見て、その一方でしゃべる芋虫のことを考える。

ここで「ああ、安定してきたな」と思っちゃったんですよ。ああこの世界観に慣れてきたと。でもその後いきなり宙吊りにされるというか、本当に「……あ?」だし“なにもわからない”んです。でもそれは説明が不足しているからじゃなくて、そして芋虫にも藤宮みたいな口調で返されて途方に暮れる、読者であるこっちも途方に暮れる、そんな終わり方。でも、もうなんだか心地いいんです。もう藤宮にも芋虫にも恋しているので。そしてタイトルを見て、『飛んで火にいる』か……単純に考えたら“俺”のことだけど、もうちょっと何かありそうだぞと思いました。

そんな風に読みました。あの、本当に「待ってくれ」という感じでとても楽しい時間を過ごしました。

草食った「飛んで火にいる

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